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股旅社中デザイン競技会 講評
 

 

会員工務店12社が切磋琢磨する 3回目の競技会

今年で3回目となった股旅社中デザイン競技会。回を重ねるごとにレベルアップし、競技会に向ける熱量も高まっているように感じます。 小さな団体の仲間同士のデザインコンペですが、だからこそ顔が見える同士でどこかで互いを意識しながら、真剣な取り組みをぶつけ合う会になっていると思います。
今回は、「庭のしつらえ」をテーマとした股旅社中デザイン競技会2019の全体講評と、最優秀デザインに選ばれた國本建築堂の「縁卓」をはじめとする全12作品それぞれの審査講評を紹介します。


総評と審査基準

〈股旅デザイン班 村澤一晃〉
庭というテーマは、みなさんが常に意識しているためとても視点が明確な作品が多いのが特徴でした。 出題者の意図を大きく超え、家の外部空間のデザインの可能性が広がったと思います。参加してくださったみなさんの熱意に感謝します。
すべての案に言えることですが、ここがゴールではありません。ほんの少しの努力、あと一工夫で飛躍的によいデザインに繋がる案も少なくありません。 今回のテーマは日常的な仕事と直結しているので、これからの取組みを楽しみにしています。

みなさんへ共通のアドバイスを贈ります。デザインで一番大事な要素は、自分のしたい事=主観と、他者に認めてもらう事=客観のバランスです。 とはいえ、自分の事を客観的に見る事はとても困難です。
どうしたら自分を客観的に見る事ができるか? それは、自分のデザインの評価を気にするのでなく、他の人のデザインを自分なりに評価する事で可能になります。 そして、自分にはない視点、自分とは違う手段、自分に不足していた事柄の発見につながります。 これからみなさんが競技会の振返りをするとき、結果報告でなく他のデザインがどうだったのかを思い起こしながら、 その事を競技会に来る事ができなかったスタッフと共有してください。

審査で基準にしたこと。大きく2つの属性に分けて考えました。一つは「自分たちの設計する住宅を分析し、接点を意識した提案」です。 沖田、創建舎、ウエノイエ、丸晴工務店、國本建築堂の案が該当します。もう一つは「自分たちの価値観、技術、見立てなどを表現した提案」でした。 イシハラスタイル、ベガハウス、佐保建設、三友工務店、大瀧建築、野澤工務店、sailがこの案でした。
その上で、今回のテーマである庭という領域にどのようにアプローチし、解釈したのか。具体的な解決方法を提示したか。という点を基準に判断しました。

ウエノイエ チームウエノイエ

作品名:憩囲台

●概要:夜空を楽しむためにビルトインガレージの小屋裏にしつらえるオープンエアスペース。
●講評
寛ぐを座る、横になるということにつなげて椅子につなげられたことは素直にうれしいです。 庭 → ビルトインガレージ → 車庫、というより第二の庭への展開は心地よい家へのこだわりをとても感じました。ヒノキのベンチとともに実現してほしい。
〈境木工 境明展〉

ガレージの上に庭となる空間を創作するとは驚き。工務店としての業務に直結しているという点では唯一の提案でスケールが大きく驚きました。 手軽に販売できるものとは一線を画している点は高評価。

〈園田椅子製作所 園田剛幸〉

國本建築堂 宮川由子 【最優秀デザイン】

作品名:縁卓

●概要:使うときに庭に向かって縁側にセットする小卓子と焚き火ボウル
●講評
最優秀デザイン、おめでとうございます。プロセスも拝見していたので、当初案からここまで素晴らしい展開だと思います。プレゼンの手段も適切でした。
建築のディテールにも注意を払い、その接点を丁寧にデザインした案は秀逸です。 とてもシステマティックにデザインされているので、金属のアーム形状が生み出すほかのバリエーションが期待できます。 デスクの素材を無垢材にしていましたが、他の素材の可能性も検討してみたらどうでしょうか。屋外使用ならでは!という素材とディテールの発見につながると思います。
〈股旅デザイン班 村澤一晃〉

アイデアがとても面白いと思いました。そしてウッドデッキに挟むだけで家具ができるという発想はなかなか思いつかない。
〈杉山製作所 島田亜由美〉

丸晴工務店 チーム丸晴工務店

作品名:デッ木バコ

●概要:氷や水を入れてウッドデッキで使用する、大工の技術でつくる木製の四角い桶。
●講評
作ったけどあまり使われないことが多いウッドデッキに、楽しみと遊び心をつけくわえる提案に感心しました。足湯は欲しいと思いました。 提案してつけてあげてほしいです。水の漏れないデッキ箱は素晴らしい。作り方を教わりたい。簡単につくれないヒノキの収納箱に感激です。 デッキに埋め込むだけでなく、それ独自だけでの使い方も提案してほしい。
〈境木工 境明展〉

丸晴工務店だからできるもの、だと思います。ちんまりした工芸品でなく、「おおらかなデザインの暮らしの道具」であるところがいいと思います。 店に陳列されているものでなく、いま家を建ててくれている大工さんが家の材料を使ってこれを作ってくれる、というところが嬉しいポイントだと思いました。
〈エーランチ 星名利夫〉

イシハラスタイル チームイシハラスタイル

作品名:打ち鐘と水場石

●概要:御影石と砂岩を組み合わせた水場石と、インターフォンに代わるものとして鉄を金槌で叩く打ち金。
●講評
嘉右衛門さんの打ち鐘は自信のレクチャーによる無駄を省いた本当にシンプルを追求した仕口で面白い。 ただ敷地が広い家でないと近隣からクレームが出るかも...
石原さんの水場は公園等にもありとても有効。既にご自宅に設置済とは! 色々な使い方が出来て庭の設えのコンセプトに十分ハマっていると思います。 毎回出てくるアイデアには恐れ入ります!
〈園田椅子製作所 園田剛幸〉

アカデミックにかたちづくられた彫刻のような⦅水場石⦆と、ガンガン日常に使うシーンのギャップがカッコよかった。 ⦅タフな道具⦆としてイシハラスタイルの家の庭に備わっていく様子がうかびました。ビデオはほんまおもろかった。 嘉エ門の⦅打ち金⦆、あたりまえに使われる呼び鈴を西尾ならではの身をもっての調査で、結果ごっそり削ぎ落としたプリミティブな形と音は力強く魅力がありました。
〈エーランチ 長田典子〉

sail  中村圭吾 【股旅社中賞】

作品名:背の高い手水鉢

●概要:現代の暮らしや住宅にあわせて従来の手水鉢を見直し、石と鉄でデザインした手水鉢。
●講評
現代の日本の住宅に日本の美をいれるアイデアと異素材の使い方、後置きできるのが良いと思います。
〈杉山製作所 島田亜由美〉

手水のフレームを敢えて鉄にして錆の風情をたのしむとは風流で好印象。軽量化も図られており、コストもしっかり計算されていてさすが!
〈園田椅子製作所 園田剛幸〉

大瀧建築 大瀧健太

作品名:育てる自立型グリーンカーテン

●概要:庭先に設置して緑を眺め、夏の日射を遮る、プランターと一体となったグリーンカーテン。
●講評
「欲しい」という視点で見た時、一番良い案でした。特に加工方法や素材の使用など、大工としてのブレの無い視点(デザイナーとは明確に違う視点)が活かされていて、 子どもが参加できる簡単な組立て計画も素晴らしいです。
スクリーン機能を実現するためのサイズの検証を詰めてゆかれると良いと思います。 小さくても効果のあるグリーンカーテンが生まれれば、さらに魅力が増すはずです。 グリーンが生い茂った季節の変化の様子も、是非みなさんに伝えてください!
〈股旅デザイン班 村澤一晃〉

すごくいい、欲しくなるものだと思いました。量産メーカーはつくれないし、ホームセンターでは取り扱えない。だから、こんなものをつくってもらえたら嬉しいと思います。 木製の一間幅のプランター、スケール感があります。写真で見るより現物で見るほうが、さらにいいと感じるものに違いありません。
〈エーランチ 星名利夫〉

創建舎 辻直子

作品名:terraice

●概要:都市型住宅の狭いテラスでも四季折々の光、風、植物を楽しめるよう考案した家具。
●講評
「らしさ」という視点では、この案は秀逸です。創建舎の家だからこその気づきがあり、提案から生まれる共感も多いと思います。 形状も素直なデザインにまとまったので、あとはディテールの勝負かもしれません。 持ち運びやすい形(素材の軽さなども含めて)、楽しい形(室内で使う時の工夫など)という視点も含めて進めてゆくと、ゴールは近いような気がします。 創建舎の家にこのデザインが馴染み、存在することが普通の風景になることを楽しみにしています。
〈股旅デザイン班 村澤一晃〉

いつも⦅やさしさが感じられる⦆提案。実現したら住む人はきっとほっこりとした気持ちになるんだろうと思います。
〈エーランチ 長田典子〉

三友工務店 チーム三友工務店

作品名:muzoca

●概要:使う人次第で様々な使い方ができるスリットと穴を開けた小さなキューブ状の木の道具。
●講評
あるだけでかわいい、繋げてかわいいという発想は、おもしろいと思いました。
〈杉山製作所 島田亜由美〉

三友さんは続けて小物的なものを提案されていますが、角材を利用とはさすが工務店らしい。 角材と丸棒の組み合わせで用途色々ではあるが今一つこれが便利! というものが無かった様な。 最後には燃料になるとのコメントはウケました。
〈園田椅子製作所 園田剛幸〉

沖田 永野美華

作品名:庭のカーテン

●概要:隣家との境界に塀などをつくらずに、曖昧に仕切りながら目線を遮る新しい仕切りのしつらえ。
●講評
風雅山本を全国に広めることにつながるという壮大な意図の庭のカーテン。素敵な発想だしぜひあったらいいなと思いました。 新素材石灰石を使った素材にも感心しました。 風雅山本で庭を楽しんでもらいたいのに、カーテンを閉め切られているのが残念とのおもいから、庭のカーテンにつなげていかれる強い思いに感動しました。 ぜひとも商品化していただきたく願ってやみません。
〈境木工 境明展〉

しっかり囲わない、新しい目線の遮り方。斬新さを感じました。かっこいいんじゃないかと期待が持てます。 素材についての説明も、なんだか斬新というか(いい意味で)ケムに巻かれたというか。 こちらが、LIMEX の特性をもっと理解し、庭で使うことのメリットや蓋然性をもっと理解できたら、評価はさらに上がったと思います。 現場、原寸で庭のカーテンを見てみたいと思いました。
〈エーランチ 星名利夫〉

佐保建設 谷口知美 【準優秀デザイン】

作品名:SUTON

●概要:概要:行灯、苔玉、風鈴など、いろいろなものを掛けて楽しむ小さなガーデンハンガー。
●講評
準優秀デザイン、おめでとうございます。デザインの手法として一番難しい、限りなく少ない要素で最大の効果を生み出すということに取組み、成果に繋がったと感じています。 使い手の参加の余白(石を選び穴を空ける)を残し、それでいて完成した形状に計算された美意識が表現されているのが素晴らしいです。 今後は、支柱とアームの接合部分のディテールを丁寧にデザインしてゆくと、より提案性が広がると思います。
〈股旅デザイン班 村澤一晃〉

道具を作るという発想、使う人の発想で楽しめるモノづくりは楽しいと思いました。
〈杉山製作所 島田亜由美〉

野沢工務店 野澤裕

作品名:casita

●概要:2階の屋根くらいの高さに設置し、眺めたり鳥の来訪を楽しむ野鳥のための小さな家。
●講評
カシイタ、小さなおうち。鳥のための細い棒、休憩場所、鳥小屋。単に眺めるだけの豊かな時間、鳥が来るのを楽しみにする自然界とのかかわりに楽しみを持つ時間の提案、理解しました。 多忙な現代人になげかける発想に感心しました。鳥が来てくれるのを楽しみにするのは結構いるのだと思います。自分もです。
〈境木工 境明展〉

わたしも存在そのものにスケール感のある鳥を見るのが楽しみです。⦅あんなに高い鳥の家⦆が庭にあったら、どんなに楽しいだろうと興奮しました。
〈エーランチ 長田典子〉

ベガハウス 谷征紀

作品名:灯々篭

●概要:カゴの重ね方を変えて光と影のゆらぎを楽しむ、三重に重ねた鉄製の灯のカゴ。
●講評
影の揺らぎを表現する灯篭。格子を3 重に重ねる工夫はなかなか思いつかないと思いました。 風の流れを教えてくれる、感じられる、自然との会話に役立つ灯篭となっていて、お庭を通じての自然との会話をサポートしてくれるものを形にしたことに感激です。 個人的には大きめのサイズで自然の偉大さを感じたいです。また木を使ってみてほしいです。 それにしてもこれをプレゼントされたらずうっと眺めている時間を過ごすだろうな、と思うとうれしいです。
〈境木工 境明展〉

そのまま持って帰って、夕暮れの庭に置きたくなる⦅ゆれるあかり⦆。和の印象とモダンなかたちはベガハウスの庭にぴったり。
〈エーランチ 長田典子〉