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相乗効果を生むワークショップ
[ ウエノイエ ]

 
さほらぼと村澤一晃がウエノイエと國本建築堂をゲストに迎えてワークショップを行った翌日、同じメンバーが今度はウエノイエに集まりワークショップが開かれました。ウエノイエとさほらぼは、県境をはさんでも車で90分で行ける距離です。このように両社は、ワークショップを共同で行うことを定例化しています。

日々磨かれていくウエノイエらしさ。

ウエノイエを訪ねたのは5年ぶり。ワークショップの前半は、2件の建築中の現場と1件の完成物件を見学させてもらいました。まず感じたことは、ウエノイエらしさが建物にあらわれていること。特殊な意匠性や変わったプランでなくとも、住宅街の中で凛とした存在感を感じるのは、一貫したコンセプトが込められているからこそだと思います。

端正な意匠性、上質な住み心地を感じる内外観。おそらく、家づくりの考え方は5年前と変わっていないと思いますが、さまざまな改良や小さな問題を解決するソリューションの積み重ねが、一目見て伝わってくる成果につながっているのでしょう。「らしさ」とは、他者との差異ではなく、自らの考えや思いを磨き上げてあらわれるものだということを感じました。

交流を重ねているウエノイエとさほらぼのスタッフは、積極的に情報を交換しあいます。普通ならば他社に聞けないようなことも遠慮なく尋ね、聞かれれば何でも答えます。このやりとりが、股旅社中の特徴だと思います。志を同じくする同業者から情報を得ること、自分たちがやっていることを同業のプロにきちんとプレゼンテーションできること。そんなやりとりが、互いの技能を向上させる。仲間の工務店とワークショップを共有することで、互いに高め合う相乗効果を生んでいます。

住み手と工務店の共創を感じる空間。

見学させてもらった完成物件は、小さな家でした。実家の敷地内に、離れのような仕事場をつくるということで着手したそうですが、お茶を入れるためのキッチンを計画しているうちに、どうせなら寝泊まりできるようにということで寝室と浴室も備え、一人で住むことができる家となった建築です。

テーブルと椅子だけが置かれたワークスペース兼リビングは、10帖ほど床面積ですが豊かな広がりと心地良さを感じます。キッチンは、股旅社中会員メーカーの松井木工が製作したもので、家具のようなつくりでコンパクトに使いやすくプランされ、お客様のお母様が嫁入りのときから愛用している食器棚とも調和しています。ベッドは畳の小上がりように造作され、寝室にも趣が感じられます。
ミニマルではなく、好きなモノゴトや好きな時間を大切にしたこの小さな家には、住居のエッセンスが凝縮されているようです。

住み手の想いや空間に対する考え方、それに応えるウエノイエの建築性がこの小さな家にあらわれています。いい住み手といい工務店。いい家づくりは住み手と作り手の共創から生まれることを実感した、そんな完成物件でした。


デザイン競技会発表作品を製品化する。

前日のさほらぼのワークショップでも行われたように、ウエノイエでもデザイン競技会で発表した作品のブラッシュアップミーティングが行われました。
作品名「パスタ」は、竹ひごで構成したシェードを持つ照明器具で、製作の中心となったのは入社したばかりの若いスタッフです。意匠性、木工技術の活かし方、照らし方を調節できる機能性や光の演出などが盛り込まれ、会場でも注目を集めました。この作品をイベント発表作品に終わらせることなく、実際の物件で使っていけるオリジナルの照明器具として製品化することが検討されました。

股旅社中活動は、オリジナルの家具道具を開発するために工務店とメーカーとデザイナーが共創に取り組むものですが、その目的はより良い住まいづくりに役立てるためです。世の中にないものを生み出すことにも意義がありますが、住空間のあり方を既製品に縛られずに考え、そのような取り組み方をする人材能力を高めることが家具道具をオリジナルで開発することの意義です。

スタッフ一人ひとりが自主的能動的に新しいことに挑み、それがチーム全体の能力を高めて自社の家づくりに有機的に生かされる。そんなワークショップをウエノイエは実践しています。