004 鉄の優しさ あたたかさを住まいに[杉山製作所+股旅ビルダー

 

人の暮らしと切っても切れない 鉄は身近な素材

木の家が好き。土の器が好き。は、よく耳にしますが、鉄の家具が好き、はあまり聞きません。
硬い、重い、といったイメージを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、大昔から人は身近で鉄を利用してきました。現在、金属製品の90%は鉄といわれています。
街の中や交通機関だけなく、身につけるものや暮らしの道具や住まいをあらためて見てみると、
鉄は人の暮らしと切っても切れない身近な素材であることに違いありません。
加えて、鉄はあたたかみや柔軟性を感じさせる素材です。
同じ金属でもステンレスやチタンの手工芸品は目にしませんが、鉄の工芸品や民芸品は数多くあります。
股旅社中ビルダーの家づくりでは、鉄を目で見たり手で触れる味のある素材として、住まいの中で活用していくことに積極的です。

股旅社中のメーカー会員である杉山製作所は、鉄製の家具、インテリア製品、住宅建築部材をつくるメーカーです。
刃物のまちと呼ばれる岐阜県関市の工場を訪ね、デザイナー村澤一晃とのワークショップと工場を見学し、
代表の島田亜由美に鉄のものづくりについて話を聞いてきました。


考える技術+ つくる技術 プロダクトを生み出す職人集団

●杉山製作所はどんなメーカーなのですか。


島田「父が創業した工場は、自動車部品をつくっていました。
しかし、バブル崩壊で自動車産業の低迷と製造拠点の海外移行が重なって、
今まで通りにやっていたのでは価格競争が強いられ、事業の状況が好転することはかなり困難だと考えました。
そのときに、鉄という自然素材が持つ優しさやあたたかい素材感を引き出したものづくりにシフトしようと考えた私が、
会社を引き継ぐことになりました」

●具体的にはどんなものづくりに変わったのですか


島田「杉山製作所を引き継ぐ以前にやっていたインテリアコーディネートの仕事の経験をもとに、
店舗の什器づくりから始めました。その次のステップとして、住宅用の家具づくりに取り掛かりました。
日本の住まいは、木が基本だと思います。
鉄の素材感は住宅にもなじみやすいと思いますが、木に鉄が取って代わることはありません。
鉄はアクセントで、木と一緒に使われて、鉄の役割を果たす、そんな製品づくりをめざしています。
杉山製作所のスタッフは鉄工の職人たちですが、図面をもらって図面通りに製品をつくるだけでなく、
デザインの意味を理解し、見え方や使い心地を考えて創り出す職人集団であることが杉山製作所の目標です」

●杉山製作所にとって股旅社中活動はどんな意味を持ちますか


島田「丁寧につくり、正確にきれいに丈夫に、あるいは早く仕上げることは大事にしています。
そのために技術を磨き、設備性能を高めることは大事なことですが、やみくもに技術や設備の向上に走らずに、
使う技術はアナログでも、その生かし方を追求するメーカーであることが杉山製作所のビジョンです。
考える、企画する、デザイン開発する、顧客と対話することができて、
そこからの発想を実現するための創意工夫ができる職人集団ということです。
5年先、10年先では、もっと進化した杉山製作所であるために股旅社中に参加しています。
股旅社中でビルダーや他のメーカーの方たちと活動を共にすることは研鑽の場になっていますし、
村澤さんとのワークショップを継続しているのは、鉄の可能性をもっともっと提示していけるようになるための活動だと捉えています。
いい刺激をもらったり、メンバーの皆さんにいい刺激を感じてもらえるメーカーでありたいと思っています」


前のめりで熱っぽいワークショップ。 住まいの中の鉄に触れてみてください。

杉山製作所と股旅社中のビルダーたちとは、テーブルの脚部、照明器具のパーツ、エクステリア用品などのデザイン開発を協働し、
鉄製品が住まいに生かされることでより豊かな住空間がつくりだせるよう切磋琢磨しています。

取材に訪れた日、デザイン開発のワークショップがデザイナーの村澤一晃と行われていました。
目を引いたのは、参加するスタッフの前のめりな姿勢です。前回のワークショップの課題をきっちり行っていることはもちろん、
やってみる過程で新しく考えたこと、気づいたことを次々と形にして検証しています。
だから試作品の数がとても多い。今回並んでいた試作品を見て、10件以上のプロジェクトが並行しているのかと思ったほどでした。
こんなスタッフたちの勢いに、デザイナーの村澤もプレッシャーを感じずにはいられないようで、
ワークショップはいつも熱っぽく行われているとのことでした。

股旅社中のビルダーが、鉄の家具やインテリア用品として杉山製作所の定番製品を各社の住宅に置くケースも増えています。
見学会などに訪れる機会があれば、暮らしの中の鉄の家具がどういうものなのか、ぜひ、手に触れて感じてみてください。