013 本音、本物、本質を伝える鉄家具メーカー[杉山製作所]

 

デザインの背景は製品の大切な価値

鉄家具メーカー、杉山製作所が、同社の製品を取り扱うインテリアショップの方々などを招いて開催した公開ワークショップイベントに股旅社中のメンバーも参加しました。
新製品の発表をしながら、その鉄製椅子の開発過程を開発メンバーが実演を交えて紹介するというものです。


会場の様子に目を向けると、各地から集まったインテリアショップの皆さんや、杉山製作所と交流のあるデザイナーや建築設計者の皆さんが、真剣なまなざしで公開ワークショップに見入っています。
股旅社中のメンバーも、いつもは自分たちで行っているワークショップと取り組み方は同じなのですが、やはり真剣に見つめています。
ワークショップを再現しながらのプレゼンテーションには、杉山製作所の鉄家具の価値があれこれふんだんに潜んでいました。
完成品やカタログからは得られない情報。それは、インテリアショップの皆さんにとっても自らの顧客に伝えたい大事な価値です。
「あ、この製品はこういう価値があったのか」、と。そのモノがどのようにして成り立っているのかを深く知ることは、モノと親密になる大事なきっかけであり、そのモノの価値を理解することになります。

そのデザインの背景に、価値はあるのか?

モノづくりのプロセスを紹介しさえすれば、それが有用な情報、価値あるお話になると決まっているわけではありません。
その開発の着眼点や着想に感心するかどうか。開発の進め方、デザインのやり方に共感したり学ぶ点があるかどうか。
完成品とプロセスの関係に「なるほど!」と納得し、「だからこれはいいモノなんだ」という深い理解につながったとき、そのデザインはコミュニケーション力を発揮します。完成品はそこそこのモノに見えたとしても、着想が凡庸で、やり方にオリジナリティや真摯さがなければ伝える価値は希薄になります。
逆に言えば、着眼点や着想が新鮮で、やり方に独自性があれば、他にはない価値あるモノに到達する可能性があるということです。


自動車部品の下請け工場からオリジナルの鉄家具ブランドへ転身をはかろうとしたときから、杉山製作所は独自のやり方でつくる鉄家具の意味と価値を追求しています。人気の商品や売れ筋にあやかる市場主導型をよしとせず、あくまでも杉山製作所ならではのメーカー主導のモノづくりに取り組んできました。この公開ワークショップが参加者たちを惹きつけたのは、そこにモノづくりの本音を見ることができ、製品の本物ぶりが確かめられ、デザインの本質に気づかされたからだと思います。
社長の島田は股旅社中に参加するときにこう言いました。
「鉄のオリジナル家具づくりをゼロから始めた発展途上の私たちは、股旅社中の姿勢や活動に、自分たちのモノづくりにつながるものがあると思いメンバーになりたいと考えました」と。

刃物の町、関の工場を見学する

ワークショップイベントの翌日、関市内の工場を見学しました。関市は鎌倉時代には刀鍛冶の都となり、現在は刃物の町として有名です。
杉山製作所がアテンドしてくれたのは、刀匠の日本刀鍛錬場と、多種多様な刃物をつくる近代的な工場、対照的な二つの現場です。
まずは、藤原兼房日本刀鍛錬場へ。こちらでは父子である25代と26代が刀剣づくりをされているということで、この日は26代の藤原兼房氏が日本刀の鍛錬を実演してくれました。一心に鋼を打つ様子に、神々しさとはこういうことかと感じ入りました。
本物の日本刀は、手にするだけで息苦しさを感じるほどの迫力でした。


続いては、丸章工業。はさみの「SILKY」、高級ポケットナイフの「MCUSTA」というブランドと、その技術でつくられる高級包丁「三昧」で知られる刃物メーカーです。
刀鍛冶の伝統を受け継ぐ職人技と先端技術を融合させてつくる製品は、世界の料理人やナイフ愛好家に知られる製品を作り出しています。
撮影NGの箇所もありましたが、手仕事の現場も先端マシンが稼働する現場も、ほとんどの工程を見学させてもらいました。
日本刀の鍛錬も刃物の生産現場も、家づくりとはあまり関係がないようでいて、直接的なつながりでないからこそとても参考になります。
モノそのものでなく、モノづくりの姿勢、考え方、やり方にこそ学ぶ大切なポイントがあります。