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いきなり完成品ができたプロジェクト。
[園田椅子製作所・ベガハウス・村澤一晃]

 
園田椅子製作所がデザイナー村澤一晃と行っているワークショップの様子を取材してきました。両者が取り組んでいるのは、新しいカウチソファのデザイン開発。 このカウチソファは、ベガハウスの特注家具であり、園田椅子製作所のプロパー製品でもあるという、ユニークな取り組みから生まれようとしている製品でした。


端正なデザインのカウチソファ

園田椅子製作所に到着すると、早速、カウチソファの試作検証が開始されました。このカウチソファはベガハウスが、ショーホーム「過去と未来をつなぐ家(萌蘖)」のライブラリーリビングをしつらえるための家具として、 村澤にデザインを依頼したことから開発がスタートしました。村澤はショーホームづくりのプロジェクトに当初より参加しているので、このカウチソファに求められていることがすんなりと理解でき、完成品のイメージが自然と湧いてきました。
製作のパートナーは園田椅子製作所。村澤は完成のイメージを伝え、技術的な相談を済ませると、最初に描きあげた図面は1次試作でありながら納品するための本番製作を想定した図面でした。

このプロジェクトが特徴的なことは、ベガハウスの特注品としてスタートしたカウチソファですが、これを自社製品にしたいという園田椅子製作所が共同開発パートナーに加わったことです。 ベガハウスは一品ものであることにこだわりはありません。その空間にふさわしい家具を特注できて、価格は規格品と同等になるというメリットがあります。 園田椅子製作所にとっては、開発費用が分担できて自社のプロパー製品が充実することがメリットです。

この日出来上がってきた試作品は2台。試作といっても、1台は問題がなければそのままベガハウスに納品、もう1台は園田椅子製作所が販売のために使う展示見本となります。
出来上がっていた試作品は、完成品でした。広々とした座面で重心が低いワイド&ローの佇まい。水平ラインを基調とした直線的な本体と、ボリューム感のある羽毛クッションの柔らかみが調和しています。 とても端正な姿のカウチソファです。いきなり本番製作とは思えないほどの高い完成度をそなえていました。

現在このソファは、「melone(メローネ)」の品名で園田椅子製作所の製品にラインナップされています。


思考を体現するデザインと技術

成り行きを聞くと、オリジナルデザインのカウチソファがいとも簡単にできあがったように感じるかもしれません。しかし、このプロジェクトは、極めて稀なスムーズさこそが凄さです。 考え方やどう取り組むかというやり方にデザインの本質を感じました。それは、形を描くことでなく、思考を体現することがデザインだということです。

稀なほどスムーズに進んだプロジェクトは、置き家具のカウチソファをオリジナルデザインでつくろうとしたベガハウスの発想が稀の発端です。 ベガハウスにとっては、過去と未来を見つめ、鹿児島と世界を見つめて渾身の力でつくりあげた特別なショーホームに、既製品の家具にはふさわしいものがないと考えてのことでした。

そして、このショーホームの成り立ちをよく理解する村澤は、ベガハウスが求めるカウチソファのあるべき姿が自然にイメージできました。 目新しい形をひねり出すことでなく、あるべき形や存在意義を紡ぎだすようにデザインしたのだと思います。そして、ベガハウスのことも村澤のこともよく知っている園田製作所が製作パートナーにふさわしいと考えました。

相談を受けた園田椅子製作所は、求められていることを的確に受けとめ、それならばこういう構造にすればいいと即座に発想し、技術の使い方の提案しました。 それによって村澤は一気に最終図面が描けた、ということです。

このプロジェクトがスムーズだったのは、要件が簡単だったからではありません。何をつくるのか、何のためにつくるのか、どうやってつくるのか、誰と取り組むか。 三者の考え方とやり方が的確にかみ合ったことのあらわれだと思います。デザインとはこういうことか、と感じました。 股旅社中の活動、交流があってこそ為しえたプロジェクトです。