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大工の仕事・大工工務店のデザイン
[ 大瀧建築・中村圭吾 ]

 
大瀧建築は、代々続く浜松の地域工務店。代表の大瀧健太は、今も現役の先代代表の父親から2019年に大瀧建築を受け継いだ4代目。 代表 となったその年に、仕事場に隣接する土地に自宅兼モデルハウスとなる「大工の家」を着工。股旅デザイン班のデザイナー・中村圭吾をパートナーに迎え、2020年の秋に完成しました。 翌年の1月からはモデルハウスとして予約見学を受け付けています。


初モノあれこれと大工の技を一体に。

大瀧が代表を受け継いで初の設計となる「大工の家」では、代々受け継いできた墨付けや手刻みなどの大工の技を注ぎながら、デザイナーの中村と共に新しいつくりに数多くチャレンジしています。
中村は、それをつくることの意味、意義、効果をデザインの礎としながら、建築とつながりのある家具や造作のデザインに取り組みます。
左官と造作家具の技を一体にした「カナリヤ石の研出しのキッチン」。階段室を造作家具として捉えた「階段図書室」。浴室と洗面室を一つながりの空間としてデザインした「造作バスルーム」。 桟の間隔を大きくとったオリジナルデザインの「障子の組子」など。自宅ということもあり、初の取り組みを家中のいたるところにしつらえています。
とはいえ、地元天竜の杉・桧を骨格や床材に用いて、外壁ははめ板張り、屋根は一文字瓦、内壁は左官仕上げ、赤松柱をしつらえた畳部屋など、大瀧建築らしい仕様もしっかりと踏襲しています。
もう一つ、大瀧がこだわったのは温熱性能の高さです。エネルギー使用を抑えて、夏は涼しく冬は暖かく。快適な暮らしの基盤となる性能も、1年間暮らしてみてしっかりと確かめられています。
こうして、大工技術を活かしながらさまざまな新しいことを取り入れた大瀧建築4代目の家は、今の大瀧建築を伝えるモデルとなりました。


1 + 1 > 2 となる秘訣、和の家で実践中。

「大工の家」に感じることは、大工とデザイナーの仕事が掛け算で生かされていることです。1+1が、3にも4にもなっている。 大工の技や大工仕事でつくられる建築と、こんな暮らしがしたいという住み手の思いを結びつける家具・造作がざまざまにデザインされ、共同の成果がありありと現れています。
「大工の家」に続いて現在、大瀧と中村がタッグで取り組んでいるのは和風の家。床のリフォームをやってもらったことで大瀧建築を見そめたお客様から新築の依頼を受け、お客様の要望でプランした住宅です。
京都の材木店まで足を運んで選んだ丸柱や桁丸太をふんだんに使い、瓦と銅板の屋根、広縁越しに庭を望む二間続きの畳部屋などをプランに盛り込み、手の掛かる和の建築の造りがいたるところに施されます。 とはいえ、昔ながらの和風の家いうことではありません。 まだ仕上げ前の構造も露わな現場ですが、今の大瀧建築らしくデザインされた住まいになるであろうことが伝わってきます。大瀧+中村の2棟目、完成が楽しみです。


ニッポンの家づくりを浜松で。

大瀧は和の建築が好きです。「大工の家」もそうですが、畳、障子、丸太材を用いたり、昔ながらの加工方法やしつらえ方も採り入れます。しかし、大瀧は和風を求めているわけではないと思います。
浜松に暮らす、今の時代に生きるお客様のための家づくり。ご飯が主食で味噌汁が欠かせなくても、コーヒーを飲んで、中華も好きで、クロワッサンを焼いたりもする。 普段着が洋服なのは当たり前で、車は欧州車が好みだったり。でも、地元の祭りが好きだったり、神社を詣でたりお墓を守ったりもする。
それが、今の日本人で、感覚や日常のいたることろがインターナショナルなのです。型どおりの和にこだわることが大工の仕事ではありません。
和風ではないけれど、地元天竜材を使い昔ながらの大工の技を生かし、新しいことや独自の型にも積極的にチャレンジし、浜松に暮らす人のためのニッポンの家づくりを目指しているのではないでしょうか。
現在建築中の家は、「大工の家」と一見違うようで、いろいろ違うようで、それでも大瀧建築らしい「ニッポンの家」になると思います。