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野地木材工業と熊野古道ツアー
[ 股旅社中 会員イベント ]

 
2022年10月から新会員となった野地木材工業。製材の仕事や製品づくりを知るために、見学会イベントを開催しました。場所は、三重県南端の熊野市。東京からだと新幹線、特急を乗り継いでも5時間以上かかる、所要時間でいえば日本で一番遠い地域で見てきた製材のことを紹介します。


ボードゲームで体験する、製材とは何か。

今回のツアーには、股旅社中のメンバーと共に、野地木材工業を拠点するJBN・みえ木の家ネットワークに加盟する工務店や設計事務所の方々も参加しました。ツアーの始まりは、「セーザイゲーム」というボードゲーム。本物の木を使用したゲームで、参加者はいくつかのチームに分かれ、それぞれが製材会社を営んでいるという設定で製材王を目指してプレイします。
ゲームの進行は、利益を多く出すために、「目利き」で丸太を選び、「競り」で狙った丸太を仕入れ、利益を多く出すために「木取り」を工夫し、利益を上げます。競りの回数は決められていて、木取りに時間をかけすぎると参加回数が減るのでスピードも重要です。

ボードゲームとはいえ、競り合う声は次第に大きくなり、木取りは頭と指先をフル回転させ、かなり熱いプレイが展開されました。製材とは何かを知るための座学ですが、利益を上げることを目指しながら、かなりリアルに製材の世界を体感した気分になります。只仕入れて、只切り出せばいいのではなく、目利きも競りも木取りも、技の世界だということを実感しました。
優勝したのは股旅社中メンバーの境木工+創建舎のチーム。大胆な目利き、相手を怯ませる競り声、巧みな木取りのスキルが勝因。優勝者には、ノジモクオリジナルTシャツが進呈されました。


技と手間とデザイン開発で高める製材品質。

現場の見学は、丸太の市場から。さきほどのセーザイゲームのおかげで、市場の景色の中に競りの様子が浮かんできます。参加者たちは、丸太の姿やサイズ、切り口などから木の価値を読み取ろうという意識が働きます。その後は、野地木材工業の工場を巡り、丸太の加工、製品の加工現場を見学させてもらいました。
丸太の仕入れには「目利き」の能力が重要だと教わりましたが、丸太から板材や角材を切り出すのも「目の技」が必要な工程でした。中身が見えない丸太を読み解いてどう切り分けるのかを考え、鋸の刃の入れ方を適宜変えていきます。木の生育年数と照らして考えれば、建材としてつくられる製材製品は、何十年、百年の使用期間に耐える品質が求められます。そのための品質管理や加工工程には、技術と手間が必要なのです。

現在、熊野の製材業を取り巻く状況は、芳しいものではないといいます。輸入材との競争があったり、国内の製材業界は大手製材メーカーが市場の多くを占め、野地木材工業を含めて小さな規模の会社しかない熊野の製材業は厳しい状況に直面しています。加えて立地の面でも地元の人が「地の果て」というように、熊野は流通に不利です。
そんな中で、野地木材工業が目指すのは、大手や流通の不利に対抗できる価値の高い製品づくりです。従来からの製材技術や品質管理に磨きをかけていくだけでなく、より新しい製材、独自の製品づくり、いままでにないデザイン開発に取り組んでいます。



神代の記憶を感じる熊野の木材で家を建てたい。

セーザイゲームと工場見学を行った晩は、市街地から車で30分ほど山に入ったところにある、山里民泊に宿泊。携帯電話の電波がとどかないところで、一晩を過ごしました。
翌日は、野地木材工業・野地伸卓専務の案内で、観光ガイドに載っていないような熊野古道おすすめスポットを何か所かめぐることができました。どこまで行っても山に囲まれた山深い里。太古から信仰を集めた巨大な岩は、たしかに神々しいものでした。

野地専務は、熊野の製材製品を届けていくためには、自社で製品の向上をはかるだけでは限界があると考えています。それを打開するのは、パートナーを得てつながることでものづくりに取り組んでいくこと。ベガハウスと共同で新しい天井材を開発したこともその一つでしょう。股旅社中に入会したもの、会員同志のつながりから何かを生み出すためと考えているのではないでしょうか。
そして、もう一つ。野地木材工業は、熊野の地域性を生かしていくことも視野に入れています。流通には不利となる地域ですが、山の恵みや神代の記憶を受け継ぐ独特の風土がこの地域にあると感じました。たとえば、家づくりを考えている人が今回のツアーイベントを体験すれば、家の骨格や暮らしを包む内装材にはぜひ熊野の木材を使って欲しい、という気持ちが湧くのではないでしょうか。
品質・パートナーとのつながり・地域性を製品づくりに生かそうという野地木材工業と、股旅社中のメンバーの交流から、新しい何かが生まれることを期待します。