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真っ直ぐな技術 まぁるい対応力
[ 松井木工・村澤一晃 ]

 
股旅社中の会員メーカー・松井木工が、股旅デザイン班の村澤一晃と行なっているデザイン開発ワークショップに参加しました。ホームページやカタログを通じて松井木工とはこんなメーカーと思っていたことに加えて、こんな側面があったのかと新たに知ることがありました。今回は、股旅社中の中でも活躍の場を広げている松井木工をご紹介します。


デザインと技術でつくる、たんす屋の新しいカタチ。

松井木工は広島県府中の家具メーカー。箱物家具の産地で、2026年に創業100周年を迎えようとしているメーカーです。市場が縮小されてきた箱物家具ですが、その中にあって競争力の高い製品をつくり出している原動力のひとつが上質なデザインです。凛とした箱物家具をつくる松井木工の実直な技術と、技術を生かして新しいデザインを紡ぎ出そうとするデザイナー村澤一晃の共同ワークが、たんす屋の新しいカタチに挑むメーカーとしてブランドを築いてきました。村澤は10年以上にわたって松井木工とモノづくりを共同しており、近年は、同じく股旅デザイン班の中村圭吾、堀達哉とも交流しながら新しいカタチづくりに取り組んでいます。

今回のワークショップは主力製品のひとつ、サルビアシリーズの新アイテムの試作チェックでした。階段箪笥から発想したというコンソールキャビネット。好きなものを飾ったり眺めたりして楽しむ家具。こんな家具があれば、こんなふうに使いたいというイメージを想起させる、なるほど、これがたんす屋の新しいカタチかと思わせる新作です。
箱物家具は、試作とはいえど仮につくり上げるということができないため、出荷できるレベルでつくられるそうです。今回の試作チェックは、良ければそのまま製品にしようという最終段階。販売用の写真撮影を行う準備もされていました。



1+1を2で終わらせないマジックボックス。

技術+デザインを、1+1=2で終わらせないやりとりがワークショップでなされていました。
試作のコンソールキャビネットは、そのまま製品にして問題のないものに見えました。箱も、脚部とフレームの構造も、引き出しのすり合わせも、見事に決まっています。余計な凸凹無しで構成された端正なつくりは、優れた技術が使われている証です。この家具をこんなふうに使いたいと想像させるのは、デザインが使い方や暮らし方を提案していることだと思います。

しかし、社長の松井邦昭とデザイナーの村澤の試作検証は、「こうしたらもっと良いかな」、「だったらこうしたほうが」というやりとりが次々に出てきます。ほぼ完成の試作品をバラしたりその場で改良図を描いたり。このやりとりが、1+1を2で終わらせないモノづくりのマジックボックスだと感じました。
両者のできること・知っていることをただ足すのではなく、やりとりの中で新しい何かを紡ぎ出し、化学変化のように新しいカタチを生み出す。もっと良くしたいという思いと思考の掛け合いがワークショップスタイルのモノづくりの真価だと思いました。
小さな気づきから始まったやりとりによって、結局、新作の完成は次回以降に持ち越し。サルビアの新アイテムは、大きくカタチを変えてさらに良いものになりそうです。



技術だけがメーカーの技能ではない。

加工と組み立ての技術に優れ、無垢材と突板を適材適所で使い分け、ウレタンでもオイルでも対応できる塗装技術もある。松井木工は、品質に優れたプロパーの製品づくりを中心とするメーカーだと思っていましたが、特注家具や造作家具も同等の比率でつくっていることを今回の取材で知りました。
木工技術に優れるだけでなく、このように間口のひろい家具づくりを行なっているからこその対応力があります。股旅社中の中でも活躍の場を広げているのは、この対応力がもっと良い家づくりをしたいと考える工務店との共同につながっているのだと思います。

ワークショップの途中、工場の一角に椅子のパーツのようなものを見つけて、「これは何ですか?」と尋ねたら、やはり椅子のパーツでした。
以前、オリジナルチェアの開発に着手して、忙しさのためにしばらく保留になっていたとのこと。新サルビアの撮影が延期になったこともあり、松井と村澤は急遽、その試作パーツを取り出してきて椅子づくりのワークショップを再開。箱物家具の技術で構成されているとのことでしたが、そうとは思えないディテールを持ったプロトタイプです。技術の使い方が柔軟です。
真っ直ぐで真っ平らなものをきっちりつくり上げる技術と、考え方や取り組み方は全方位に向けているようなまぁるい対応力を併せ持つのが松井木工の強みではないでしょうか。