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最小限のオフィスと自由な設計力
[ 沖田 ]

 
ほぼ3年ぶりに、広島の沖田を訪ねました。3年前、沖田は新社屋の建設に着工し、ちょうど基礎工事を終えた頃でした。もともとは広島市の市街地にオフィスを構えていましたが、新社屋は市街地から若干離れた住宅地域、沖田が運営する街づくりプロジェクト「風花山本(ふうがやまもと)」にあるモデルハウスに隣接して計画されました。
新社屋は2020年に完成し、本社を移転。その年は、股旅社中でも新社屋の見学ツアーを計画していたのですが、コロナ感染症の影響で残念ながら計画は見送ることとなりました。そんな沖田の新社屋を、今回ようやく見学する機会を得ました。


オフィスが変わる、働き方と意識が変わる。

新社屋のプランについて、代表の沖田憲和は「最小限でやりたかった」と話します。そのために、設計デザインに関わるスタッフの執務席はフリーアドレス制。ひとりに与えられる専有のオフィス環境は、ノートPCと携帯電話と小さなロッカーだけ。毎朝出社することが原則ですが、移転とともに働き方が大きく変わったようです。
沖田は、「通勤時間はストレスだと感じていました。加えて、移転を考えたときに、旧社屋に保管されていた資料にムダが多いと。もともと山本地域は、市街地のオフィスがあったときから沖田のもうひとつの拠点でもあり、ビルの中の環境とは違うところで新しい仕事のやり方を実践しよう」と考えたといいます。

実際、沖田の社屋はオフィス然としたところがありません。木造の外観は、沖田が建てた住宅が連なる街並みに調和し、内部空間はオフィスというよりはアトリエやスタジオといった雰囲気。スタッフたちからは、「最小限のオフィス、フリーアドレスは工夫が必要だけど、そこでの仕事のやり方が身についてきた」、「自分たちがつくった風花山本の住まいを毎日、いつでも間近に見ることができ、触れることができるのがいい」、「出勤するという感じがしない、街と反対に向かうということだけでなく、ここが気持ちいい環境だからだと思う」という声を聞かせてもらいました。


考え方も変わる、設計デザインも変わっていい。

代表の沖田は、「住宅は、建築の中でかなり特殊」だといいます。「いわゆるビルだったら、かなり小さな規模でもサッシとかさまざまな部材が特注品です。でも、住宅は規格品だけでつくることもできます。その特殊性には馴染めないし馴染みたくない。もっと自由な住宅建築をやっていきたい」と。
これが沖田の家づくりの原点なのでしょうか。この考えを実践していくために、新社屋ができた頃から代表の沖田は、「もっとスタッフに任せることにした」とも話します。「“任せる”ことでもっと良くなるようにしたい。設計士の集まりとして、スタッフがやりたいことをやりたい。そんなふうに考えています。」

これが普通だ、という一般的な概念にとらわれずに、もっと自由にもっと上質な住宅建築に取り組んでいく。そんな考え方を実践していく場となることも、新社屋のプランにこめた狙いだったようです。そう思うとこの新社屋は、沖田が建てる住まいで仕事をする、そんな空間に感じられます。
仕事空間が変われば考え方も変わる。そして、この社屋を拠り所として、より自由な設計デザインが生み出されていくのだと思います。


デザイン競技会の振り返り、そして次回は!

今回の取材では、若手スタッフの声もいろいろ聞かせてもらいました。その中で、先頃行われた股旅社中デザイン競技会のことも伺いました。 この取り組みの中心になったのは、入社して1、2年目のスタッフでした。彼らは発案したり、社内の意見を取りまとめたりしながら、「自分がやりたいこと」として作品づくりに取り組み、「任せる」とした代表の沖田の思いにも応えました。
「今回の発表は、成績は芳しくないものでしたが、沖田としてはこれまでのどの作品よりも、取り組み方も内容も良かったと思っています」と沖田は評価します。プロジェクトを進めてきたスタッフの中には、今回が初の経験だったというスタッフもいます。他社の発表を見たり、現地で交流する中で良い刺激を得ることもできたと振り返りました。
そしてスタッフたちは、「次回も参加したい」と、早くも前向きな声を聞かせてくれました。股旅社中のメンバーを取材していつも思うことですが、代表の沖田もスタッフたちも、爽やかに負けず嫌いな面々でした。